2月16日、Appleが、FBIの捜査協力を拒否する声明を公式にAppleのサイトで公開したことが話題になっています。

 

www.apple.com

 

iphone-mania.jp

 

概略

 

簡略まとめ

 

米カリフォルニア州で2015年12月に発生した銃乱射事件の調査の一環で、犯人の所有していたiPhone5cを解析するため、裁判所がAppleに対してFBIの調査に協力するようにと判決が下りました。そして、ティム・クックCEOは”これを拒否する”文書を2016年2月16日付けで公開しました。

 

後ほど詳しく説明しますが、”拒否する”と書かれている日本語訳の文章が多く出回っていますが、Appleは捜査協力を全て拒否したわけではありません。あくまで要請の”とある一部”を拒否したことが注目されているのです。

 

 

それでは、この一件の背景から説明を始めます。

 

背景

 

その事件は、サンバーナディーノ(米カリフォルニア州)で発生したものが発端です。米連邦捜査局(FBI)幹部は、この銃乱射事件について、テロ行為として捜査を進めていることを明らかにしていました。

 

説明するまでもないですが、アメリカ政府、オバマ大統領は、外交・安全保障政策では、国際テロ組織「アルカイダ」や過激派組織「イスラム国」(IS)が「我々の直接の脅威だ」とし、テロ対策を最優先に取り組む姿勢を強く表明されています。言うまでもないですが、これらの対策に多額の資金を投入しています

 

公開されている資料によると、2017会計年度(2016年10月~17年9月)調達費などの基本予算(一般経費)は、要求ベースで前年度比1.9%減の約5239億ドル(約60兆2000億円)。戦費に充てる「国外作戦経費」は、同15.5%大幅増の約588億ドル(約6兆8000億円)に達しています。過激派組織「イスラム国」(IS)掃討関連費として同41.5%増の75億ドルを。ただ、基本予算と戦費を合わせた総額は、前年度要求比0.4%減とほぼ横ばいの約5827億ドル(約67兆円)となっています。

 

mainichi.jp

 

このような背景もあり、米連邦捜査局はテロ行為、殊更、過激派組織「イスラム国」の動向の米国内での捜査には一層の力を入れていますし、莫大な資金投入があることも上に書いたとおりです。

 

www.huffingtonpost.jp

 

そのため、今回のケースでも裁判所は、事件の調査においてAppleに捜査に協力するよう、つまり今回の場合、FBIと協力し犯人のiPhone5cを解析するような判決が下りました。

 

しかしながら、これまでもAppleのティム・クックCEOは、ユーザーのプライバシーを重視し、政府機関等からの求めを拒否する姿勢を示していたことは有名です。そして、現地時間2月16日に「お客様へのメッセージ」と題した文書を公開し、公に、あくまでもユーザーのプライバシーを守り抜く姿勢を堅持する態度を表明しました。

 

このAppleのプライバシー・個人情報保護に対する姿勢の表明が、今日の高度に発達した情報化社会における「個人情報と国家の安全保障」を考える上で非常に重要なケースになり得るため情報セキュリティ方面の方々から国家安全保証方面、国際政治方面の方々まで巻き込んで大きな注目を集めることになりました。

 


公開されたメッセージのまとめ

 

公開されたメッセージを一言で纏めます。

 

FBIが暗に要求してきた、現状の暗号化技術(セキュリティシステム)を取り払い、従来のパスコード入力方式のシステムをiOSに組み込み、また政府等の要請があればどの端末にも、権限がある人であればアクセス可能にするような機能は、バックドアそのものであり、Appleは断固として、バックドアをシステムに組み込み、個人情報やプライバシーを侵害するような要請を受け入れることは出来ない。

 

軽く流れを纏めると、

 

  1. セキュリティ機能(暗号化技術)はプライバシー保護の観点から非常に重要
  2. 我々はテロには断固とした姿勢をとり、積極的に捜査協力をしている
  3. しかし、FBIの要請したセキュリティ機能を回避できるiOSのバージョンを作ることは、バックドアを作ることと同じだ
  4. また彼らが要求している、セキュリティ機能(暗号化)を廃止し、パスコード入力の新しいセキュリティシステムの構築は、馬鹿げている。
  5. 余裕で総当り攻撃でパスワードがバレてしまう。
  6. また、全てのiPhoneに、権限を持った人がアクセスできるということはプライバシーの侵害意外のなにもでもない
  7. それが、より大きなセキュリティリスクを発生させることを米国政府は分かっていない
  8. だからこそ、Appleはアメリカ民主主義への最大の敬意と祖国への愛情を持ち、FBIの要求に対し異議を申立てる
  9. バックドアを作るなど間違っている

 

こんな感じです。要は、「セキュリティ機能を弱めてくれ」「政府の要請があれば、全てのiphoneユーザーの端末にある情報を取得できるようにしてくれ」という要求を拒否した、と説明しています。後述しますが、ホワイトハウス報道官は、司法省はiPhoneにバックドアを設けるよう要請しているわけではなく、「1台のiPhoneの解除を求めているだけ」と発言していることも念頭に入れておいてください。

 

 

問題の本質

 

これは、「国家安全保障の名の下に、個人情報保護は規制されるべきか」、或いは「国家安全保障の名の下に、我々の情報端末利用やインターネット利用等は、規制されるべきか」という話になってきます。オーバーに言えば、人権が国家安全保障の名の下に規制されるべきか、ということなのですが、そういう類の話なので、各国政府や各国の専門家はこの声明に非常に着目しているのです

 

例えば、中国やロシア、共産主義の国ではインターネットは国家が運営すべきだという方針を示してます。政府が国民のインターネット利用を積極的に規制できる仕組みを世界レベルで行っていきたいという姿勢を示していることは、これまでの様々な国際会議でのロシアと中国の発言や姿勢を見ていればすぐにわかりますね。(別の記事でこの件は詳しく後日書きたい・・)

 

また、例えば、2013年のエドワード・スノーデン氏の例を見てみましょう。エドワード・スノーデンは2013年にアメリカ国家安全保障局 (NSA) による個人情報収集の手口を告発し、現在は、期限付きの滞在許可証の元にロシアに滞在していると言われいます。彼は、米政府がNSAを使って秘密裏に、全世界の人々の個人情報をネット上で監視、収集していたことを示す機密文書を暴露しました。通信の傍受に関しては、アメリカの様々なIT企業、サービス・プロバイダーが協力を示し、各社のサーバーが個人情報のデータを収集し、提供していたと言われています。もちろん、その対象は僕達の住んでいる日本にも及んでおり、昨年の8月にはオバマ大統領が安倍首相と電話会議を行い、その件について謝罪があったとされていますね。

 

www.asahi.com

 

NSAに情報を提供していたサービスにFacebookやGoogleも挙げられられています。僕達は知る由もないですが、もしかすると日本国内のIT企業、サービス、プロバイダーもNSAに協力していたかもしれません。もしかして、もしかすると、LINEの田端さんは、普段はふざけたことばかり言っている印象しかないですが、秘密裏にLINEの通信内容を渡しているかもしれないのです。僕は知りませんが。

 

 

diamond.jp

 

 

とは言え、日本では通信の秘密が憲法第二一条と、電気通信事業法第四条によって厳格に守られているので、諸外国では安全保障や治安目的で通信傍受が広く行われていますが、日本では組織犯罪などの法執行目的に限定されており、実質的にサイバーセキュリティ対策としての通信傍受が行えていないのが現状ですね。

 

今回のFBIがAppleに要請した内容も、安全保証や治安目的の他なりません。スノーデン氏の暴露した資料によると米国の様々な企業が通信傍受等に協力していることが示されていましたが、Appleは断固反対と言う姿勢を取った、しかも公に!

 

スノーデン氏も即座にこのAppleの対応をTwitterで賞賛しています。

 

 

 

FBIのAppleに対する要請は、市民から自分の権利を守る力を奪うことになると述べています。

 

「たった1台」では済まない


Appleの決断については賛否両論あり、Wall Street Journalなどはティム・クックCEOの決断を非難しています。


またホワイトハウス報道官は、司法省はiPhoneにバックドアを設けるよう要請しているわけではなく、「1台のiPhoneの解除を求めているだけ」と発言しました。

 

In a briefing with reporters, White House spokesman Josh Earnest deferred to the Justice Department but said its important to recognize that the government is not asking Apple to redesign its product or "create a new backdoor to its products."

 

www.reuters.com

 

techcrunch.com



しかしスノーデン氏および複数の専門家は、「1台へのアクセスを認めればいずれすべてへのアクセスを認めることになる」と主張しています。ソフトウェア開発者のマルコ・アーメント氏はブログにおいて、一度認めてしまえば政府はそれを理由に永久的にバックドアを設け、個人のデータに勝手にアクセスするようになるだろうと警告しています。

 

またフリーダム・プレスのトレバー・ティム氏は、FBIの主張を認めれば、中国も同じことを企業に求めるようになると指摘しています。スノーデン氏の引用によれば、New York Timesも中国政府が米政府を踏襲し、多国籍企業に対し同様の要求をするようになると主張しています。

 

こういった類の話になると、ちょっと逸れちゃいますが、インターネット規制やアーキテクチャ論で有名なアメリカの法学者、ローレンス・レッシグさんが書かれた『CODE VERSION 2.0』を読み返したくなります。

 

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僕個人としては、国家安全保障に関わりますし、僕自身別に重要な人物でも何でもないので、通信内容を政府等に把握されていても特に問題ないと感じるため、反対ではありません。

 

政府がそういった情報を集約して、もしかしたら『サイコパス』というアニメに登場するシビュラシステムとか作って、犯罪係数で事前に逮捕!みたいな社会になったとしても、それはそれで面白いと思います。既に一億総監視時代ですしね。

 

最近だと、京都府警察が犯罪予測システムを日立と作ったことが話題になりました。

 

犯罪予測システム、全国初導入 京都府警 : 京都新聞

 

しかし、今回のケースで言う、OSレベルでバックドアを公に仕掛けられた時、または、政府が集めた個人情報、それらが悪意のある第三者が簡単にハック出来てしまうようなシステムだけは避けて欲しいと切に願います。あくまで国家や個人の安全保障の元に、特定の、一定以上のセキュリティクリアランスを持った人のみがアクセスできるような運用をして欲しいです。

 

しかし、政府に反対姿勢を見せるAppleの決断は、ものすごく難しいものだったと思います。それでも、公に声明を出したことは、今後の個人情報保護に関する米国内、はたまた世界情勢に大きく影響するに違いありません。引き続き動向に注目していきたいです。

 

対岸の話で私達の生活には関係ないから興味ない?

 

本当にそうでしょうか。既に国際会議レベルで個人情報保護は国家安全保障の元に規制すべきであるという動きはあるんです。

 

もしかしたら、すぐそこにまで、そういう社会は迫ってきているのかもしれませんよ。

 

 

個人情報の話や安全保障の話に興味がある人がいらっしゃれば、以下の記事もぜひ一読してみてください。コメントも随時受け付けています。

 

 

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